必須鉱物を使用したバッテリのイノベーション
製造者に持続可能なサプライチェーンの維持が求められる、バッテリセルによるモバイル電化において重要な鉱物
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要約
- 最新のバッテリは重要鉱物によって動作しています。最も重要とされる鉱物はリチウムですが、コバルト、ニッケル、マンガン、グラファイトなどもバッテリの陰極、陽極、および電解質の重要な構成要素です。
- セルに使用される原料によって、バッテリ固有の特徴が決定します。しかし多くの場合、製造者の鉱物調達には経済面および環境面での課題やトレードオフが存在します。
- エシカルなバッテリ製造には、責任ある材料調達と環境に対する影響緩和が必要です。
- バッテリのリサイクルにより、耐用寿命を迎えたバッテリから希少鉱物を回収できるため、新規採掘への依存度やサプライチェーンの脆弱性が低減されます。
鉱物によって動作する自動車
世界的なエネルギー移行や電動化のトレンドは、電気自動車(EV)の導入や再生可能エネルギー貯蔵ソリューションなど、自動車や電力分野への技術応用を促進しています。このトレンドの影響で、業界イノベーターはバッテリ技術に注力しています。業界全体での継続的な需要の高まりを受け、バッテリ用鉱物の新たな調達先の開拓や、製造のプロセスおよび技術における効率改善など、この数十年でバッテリ製造は急激に成長しました。
バッテリ化学では、鉱物の組合わせが全体的な性能に影響を及ぼします。各セルの電極および電解質は、さまざまな元素や化合物を組み合わせて生成されており、それぞれの相互作用によってバッテリの特性が決まります。 本ページでは、必須鉱物が採掘から、現代世界が依存を高めているモバイルシステムや電力システムの動力源としてのバッテリになるまでの工程を順を追って説明します。また、サプライチェーンの安定性を維持するための課題や戦略についても解説します。
さらに詳しい情報
化学的性質、電解質の効率、熱管理、および充電/放電のメカニズムは、バッテリのエネルギー密度、電力出力、寿命、および全体的な性能を決定づける基本的な要素です。
原料
リチウムイオン(Li-ion)バッテリは、現在のバッテリの状況において圧倒的な地位を築いています。リチウムイオンバッテリは、鉱物やその他の材料の複雑な組合わせで構成されていますが、それぞれの材料がバッテリ固有の特性を決定づけます。名前ともなっているリチウムが最も重要な元素成分ですが、Li-ionセルの製造には他の鉱物も必要です。
陰極の材料
バッテリの陰極は、エネルギー密度、電力出力、セルの寿命といった重要な性能特性に影響を及ぼします。
エネルギー密度と安定性に優れたコバルトは、特にEV用Li-ionバッテリセルの陰極に使用されています。しかし、コバルトの採掘は他のバッテリ鉱物以上の倫理的問題に直面しており、バッテリ製造者がサプライチェーンの出自を追跡するだけでなく、上流の関係企業にも健全な採掘や流通に責任を持つことが求められます。 例えばEUは、いわゆる紛争鉱物に対する規制を施行しています。これらの規制は、武力紛争の資金となる、または人権が侵害されている環境で採掘される鉱物の使用を抑制することを目的としています。
質量当たり、体積当たり共にエネルギー容量の大きなニッケルも、Li-ionバッテリの陰極に多く使用されています。しかし、繊細な生態系に影響を与える可能性があるニッケルの採掘では、環境問題の懸念が生じます。ニッケルの主要な産地であるインドネシアやフィリピンなどのオセアニア地域では、森林伐採や野生動物の生息地の破壊、水質汚染などが問題となっています。これらの理由から、米国の大手EVメーカーであるTesla社は、将来的にニッケルベースのLi-ionバッテリの使用をやめることを宣言しています。
マンガンはニッケルやコバルトよりも豊富に存在する廉価な鉱物ですが、質量当たり、体積当たり共にエネルギー密度では劣ります。しかし、エネルギー密度が低いことで反応性や発火の可能性も低くなるため、安全性の高い材料としてリン酸マンガンリチウムなどの特定のLi-ionバッテリで使用されています。電動工具メーカーやコストを重視する製造者は、製品のバッテリ向けにマンガンを採用することが多々あります。
陽極の材料
バッテリの負極となる陽極は、入手しやすく安価な炭素同位体であるグラファイトを主な材料としています。しかし、グラファイトの採掘も粉塵による大気汚染や水質汚染、土地の劣化といった環境問題を引き起こす可能性があります。このため、事業を持続するにはこれらの問題を解決することが重要です。
最新の高密度バッテリでは陽極の材料として、グラファイトよりも多くのリチウムイオンを蓄えられるシリコンが使用されています。これにより、EVの航続距離が伸び、充電速度が速くなります。しかし、充電・放電サイクル中に膨張・収縮するというシリコンの性質による安全性のリスクをセル構造内で低減する必要があります。
電解質の材料
バッテリの陰極と陽極の間の電解質により、イオンの流れが促進されます。電解質は一般的に、有機溶剤で溶解したリチウム塩で構成されます。現在、Li-ionバッテリの電解質市場ではフッ化リチウムと他の溶剤を反応させて生成するヘキサフルオロリン酸リチウムが主に流通していますが、他のリチウム塩や固体電解質の研究も進められています。
リチウムの生産
リチウムは主に南米のかん水鉱床やオーストラリアの硬岩層で確認されています。通常、リチウムは大規模な蒸発池を使用した方法や、従来の露天掘りなどで抽出されます。いずれの抽出方法でも、地域の水源や生態系への害を最小限に留める配慮が必要です。
他の多くの金属とは異なり、リチウムは金属状態ではなく、炭酸リチウムや水酸化リチウムといった高純度な可溶性化合物として精製されます。
かん水抽出
かん水抽出では、通常は広大な蒸発池を使用し、地下かん水内のリチウム塩を200~1400 mg/Lの濃度に濃縮する必要があります。大規模に行われるこのプロセスは時間がかかるだけでなく、大量の水を必要とします。
かん水は濃縮された後、一連の化学反応による沈殿によって不要な成分が除去されます。これによって徐々に結晶化が進み、炭酸リチウムが抽出できるようになります。リチウムを最大限に回収し、ムダを最小限に抑えるには、これらの反応を注意深く監視して効率的なろ過プロセスを行うことが重要です。
他の方法として、直接リチウム抽出法も使用されています。これは、蒸発池を使用せずにかん水からリチウムを抽出できる、より持続可能な方法です。このプロセスでは、リチウムと親和性のある粘土鉱物やイオン交換樹脂を吸着材として使用し、かん水からリチウム濃度の高い溶液を回収します。吸着材はリチウムイオンで飽和すると脱離する性質があるため、リチウム溶液を回収できます。残念ながら、このプロセスはリチウムの商業需要を満たせる規模での実用化には至っていません。
硬岩スポジュメン採掘
さらに詳しい情報
Li-ionバッテリにはファイブナイン純度呼ばれる99.999%の超高純度炭酸リチウムが必要です。
精製、製造、組立て
リチウム同様、他の鉱物もバッテリセル製造で使用する前に純度を高める必要があります。一般的に、このプロセスでは一連の化学的および物理的組成変換が必要となりますが、使用される方法などは鉱物や用途によって異なります。リチウムの精製では複数の精製およびろ過ステージが必要ですが、コバルトやニッケルは複雑な乾式精錬または湿式精錬プロセスによって分離されます。
精製後、高純度の材料がバッテリコンポーネントの製造に使用されます。陰極材および陽極材は、精密な混合、加熱、およびコーティングプロセスによって合成されます。いずれの工程でも、バッテリ性能を最適化するために信頼性の高い測定および品質管理が必要となります。
電解質は、バッテリの劣化や安全上の問題につながる水分の浸入に細心の注意を払いつつ、リチウム塩を純溶媒に溶解させて調合します。これらのコンポーネントは漏れを防止し寿命を維持するために、複雑に積層および巻回が行われ、密閉処理が施されます。
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組立て時、スマートフォン、EV、バッテリをバックアップとして使用する洗練された電力管理システムなど個別の用途に応じて、個々のセルがバッテリパックやモジュールとして組み合わされます。
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リサイクルと循環型経済
バッテリサプライチェーンの維持
リチウムイオンバッテリの需要が急増する中、持続可能な事業を継続し、環境への影響を最小限に留めるには、鉱物の採掘、生産、およびリサイクルの最適化が不可欠です。検討に値する対策として、厳格な水管理戦略の実施、地域の環境規制の確実な遵守、および採掘企業や関連企業による直接リチウム抽出法への投資などが挙げられます。
バッテリ用鉱物の生産は、技術、環境、社会の動きの相関性の縮図です。人類が重大なエネルギー移行を推進し、カーボンニュートラル目標に向けて協調しながら前進する上で、産業界は長期的な持続可能性戦略に倫理、環境保護、および収益を盛り込む必要があります。成功を継続するには、技術的な進歩、原料のエシカルソーシング、および全体的に持続可能な製造が求められます。