プロセス産業における脱炭素化
革新的な技術を取り入れることで、産業界はエネルギー使用量の最適化、廃棄物の削減、実質ネットゼロ操業に向けて前進しています。
要約
- プロセス産業は、さまざまな脱炭素化手法を通じて二酸化炭素排出量を削減する大きなチャンスを手にしています。
- 化学、鉄鋼、石油・ガス、鉱業、発電、食品製造などの基幹産業では、その中核となるプロセスにおいて本質的に大量の温室効果ガスが放出されるため、脱炭素化への道のりは厳しいものがあります。
- 炭素集約型プロセスには多大なエネルギー需要が伴うため、産業界にとってプロセス排出量とその動力源である化石燃料の両方を削減するという二重の課題が生じています。
- プロセス産業では、プロセス廃棄物の削減、クリーン燃料の使用、再生可能エネルギー源への切り替え、循環型経済の活動により廃棄物を最小限に抑えることで、実質ネットゼロを達成できます。
- プロセス産業の脱炭素化には、継続的な学習、技術革新、管理可能な投資、そして実質ネットゼロへの機運を醸成するための段階的なアプローチが必要です。
- バリューチェーン全体を通じてサステナブルな活動を推進し、排出量を削減するためには、業界関係者の連携が不可欠です。
取り組みへの呼びかけ
温室効果ガスの排出によって引き起こされる気候変動は、緊急の世界的課題となっており、あらゆる事業分野において即時かつ断固とした脱炭素化の取り組みが求められています。こうした取り組みは、大気中の二酸化炭素排出量を削減するために不可欠であり、一部の産業は本質的に他の産業よりも炭素強度が高いものの、それぞれのプロセス産業にはこれを効果的に緩和できる可能性があります。
このような可能性や方法には、排出量の削減、炭素回収、プロセス効率の最適化、代替燃料源や生産方法への切り替えなどが含まれます。これらの取り組みは、脱炭素化と総称され、大気中への二酸化炭素排出による環境負荷を低減します。この記事では、プロセス産業における脱炭素化の複雑さについて詳細に調べ、実質ネットゼロの未来を実現するための実践的な戦略、ならびに協力体制や技術の重要な役割を検討します。
最も炭素集約的なプロセスの課題に立ち向かう
いくつかの産業は、その中核となるプロセスに固有の炭素強度があるため、脱炭素化の追求において特有の課題に直面しています。これには、以下が含まれます。
- 化学および石油精製:精製プロセス、特に天然ガスの水蒸気メタン改質法(SMR)による水素製造は、主な二酸化炭素排出源となります。この水素は、精製された製品から硫黄やその他の不純物を取り除く水素化精製など、さまざまなプロセスに不可欠です。同じプロセスは、肥料生産に使用されるアンモニアの製造や、その他の重要な製造プロセスにも使用されます。
- セメントおよび石灰製造:セメントおよび石灰の製造には、副産物として二酸化炭素を放出する高温プロセスの焼成が含まれます。これらのプロセスでは石炭や石油コークスなどの化石燃料が広く使用されているため、二酸化炭素排出量はさらに増大します。
- 鉄鋼製造:鉄鉱石を鉄鋼に変える際には、高炉や酸素転炉が多用されており、大量の二酸化炭素が放出されます。さらに、連続鋳造、熱間圧延、その他の成形加工など、その後の工程が大量のエネルギーを消費する特性を有することも、この問題を複雑にしています。
- 食品・飲料産業:農業や原料調達から加工、包装、流通に至るまで、食品・飲料産業はさまざまな段階で化石燃料に大きく依存しており、全体的な二酸化炭素排出量の増加につながっています。
現代社会に欠かせないこれらの産業が、世界の温室効果ガス排出量の大部分を占めています。米国だけでも、これによって産業部門における二酸化炭素総排出量の75%以上が占められています。
さらに詳しい情報
化学・石油、セメント・石灰、鉄鋼、食品・飲料の各産業は、二酸化炭素総排出量の75%以上を占めています。
これらの排出量に対処することは、環境上の急務であるだけでなく、環境・社会・ガバナンス(ESG)に対する企業の責任を果たし、長期的な経済的サステナビリティを確保するためにも極めて重要です。
エネルギー消費量とプロセス排出量の絡み合った課題への対応
さらに複雑なことに、これらの炭素集約型プロセスの多くは、エネルギーも大量に消費します。これにより、プロセス自体からの排出量を削減すると同時に、プロセスの動力源として使用されるエネルギー源の脱炭素化という二重の課題が生じます。
たとえば、製油所では、水素化分解、常圧蒸留、接触分解などのプロセスに膨大なエネルギーが必要です。これらのエネルギー必要量を化石燃料に依存することで、プロセス全体の環境負荷がさらに増大します。
セメントと石灰の生産は、石灰石やその他の鉱物を高温加熱する焼成と呼ばれるプロセスにおいてロータリーキルンに大きく依存しています。そのため、大量の二酸化炭素が放出され、プラントの経年劣化が効率に大きく影響します。古い設備の多くでは、先端的の予熱システムがないため、熱回収が低下し、全体的なエネルギーとプロセス効率が低下します。
鉄鋼やその他の金属の生産プロセスも同様に、加熱、溶解、成形に大量のエネルギー投入を必要とし、多くの場合、天然ガスや石炭などの化石燃料に大きく依存しています。これらの複雑に絡み合った課題に効果的に対処するために、プロセス産業は、それぞれに実質ネットゼロ操業を実現するための焦点が明示されている、4つの柱から成る包括的な脱炭素化戦略を採用する必要があります。
確固たる脱炭素化戦略のための4つの柱
戦略
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排出量の削減
第1の柱は、直接的なプロセス廃棄物となる副産物の二酸化炭素を最小限に抑える、または除去することです。これには多くの場合、革新的な技術を取り入れた運用上のパラダイムシフトが必要になります。プロセスの最適化には通常、エネルギー消費量と廃棄物の発生を最小限に抑えるために、既存の運用を微調整することが含まれます。これは、高度なプロセス制御システム、データ分析、リソース有効活用のためのベストプラクティスを導入することによって実現できます。その実現に必要なデータを提供する計装機器は、場合によっては既存のものもあれば、追加されるものもあります。本質的に炭素強度の低い代替技術を開発し、導入することも重要です。これに含まれるのは、実現可能な場合は、再生可能な電気エネルギー源への移行、より効率的な機器の利用、避けられない排出に対する二酸化炭素の回収・貯留(CCUS)技術の導入です。たとえば、CCUSの主な目的は、プロセスオフガスを回収・貯留することにより、大気中への二酸化炭素の放出を防ぐことです。場合によっては、排出量を大幅に削減するために、プロセスの抜本的な再設計が必要になることがあります。これには、まったく新しい生産方法への移行、異なる原料の利用、二酸化炭素の発生を最小限に抑える、または除去する代替化学物質の開発などが含まれます。
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クリーン燃料の採用
第2の柱は、エネルギー生成に関して、化石燃料からの脱却と、水素などのよりクリーンな代替エネルギーの導入に重点を置き、プロセス産業の脱炭素化を支援することです。グリーン水素は、再生可能エネルギー源を使用した電気分解によって生成され、完全にカーボンフリーの燃料源となります。これは、高温プロセスにおける天然ガスの代替や、低炭素化学物質や燃料の製造原料としての利用など、プロセス産業におけるさまざまな用途に大きな可能性を秘めています。バイオ燃料は、農業廃棄物、木材残渣、その他の有機物など、再生可能な資源から生成され、化石燃料に代わる、よりサステナブルな代替燃料を提供します。バイオ燃料の燃焼によって二酸化炭素が放出されますが、この炭素はもともと原料の成長中に大気から吸収されたものであるため、これらのプロセスはカーボンニュートラルであると考えられます。
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エネルギー消費の脱炭素化
第3の柱は、機械や機器の電力供給からさまざまなプロセスの熱供給に至るまで、エネルギー消費のあらゆる側面において、よりクリーンなエネルギー源に移行することです。太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギー源をエネルギーミックスに組み込むことが極めて重要です。これには、太陽光発電所や風力タービンによるオンサイト発電、ユーティリティからの再生可能エネルギーの調達、再生可能エネルギー購入契約の締結などが含まれます。実現可能な場合は、電化すること、つまり従来の化石燃料を使用するプロセスを電気式の代替手段に置き換えることで、排出量を大幅に削減することもできます。これは特に、電気による代替手段が実現可能で費用対効果が高くなりつつある、加熱や輸送などのプロセスに当てはまります。
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廃棄物や製品の削減による循環性と効率性の向上
第4の柱では、エネルギー消費量と廃棄物の両方を削減するために、生産プロセス全体を通じて廃棄物を最小限に抑えることが重視されます。高度なプロセス制御システムとデータ分析を導入し、計装機器から提供されるデータを活用することにより、非効率性を特定して、プロセスを最適化し、廃棄物をその発生源から最小限に抑えることができます。さらに、廃棄物は有益な製品や他の用途の原料に再利用することが可能で、循環型経済に寄与し、副産物による環境負荷を軽減します。この柱を導入することで、各組織は、直線的な「取って・作って・捨てる」モデルから、再利用、転用、資源を可能な限り長く循環させることに重点を置いた循環型経済の原則へ、意識転換を促すことができます。この理念は、長期的なサステナビリティを実現するために不可欠です。
長期的な成功への機運を高める段階的アプローチ
複雑なプロセス産業の脱炭素化に向けた取り組みにおいて最適なのは、段階的なアプローチの採用であり、時間をかけてゆっくりとではありつつ、効果的な改善を図ることが重要です。これにより、以下が可能になります。
- 継続的な学習と最適化により、各フェーズで貴重なデータと有益情報が得られ、その後の戦略を改善するために活用できます。これにより、脱炭素化の取り組みの継続的な改善と最適化が保証されます。
- 管理可能な投資とリスク軽減により、戦略的な投資配分が可能になり、大規模で未検証の技術に関連する財務リスクが最小限に抑えられます。
- 機運を高め、進歩を示すことができます。初期段階での成功は、社内外の信頼を築き、さらなる投資を呼び込み、実質ネットゼロの未来への移行を加速させます。
たとえば、脱炭素化に向けて取り組んでいる多くの企業は現在、つなぎ燃料(transition fuel)と呼ばれる、天然ガスなどの従来の化石燃料に代わる低炭素の代替燃料を活用しています。天然ガスは、燃焼時の二酸化炭素排出量が石炭の約半分であり、完全に脱炭素化されたエネルギー源への橋渡しとして、天然ガス資源のない地域に液化天然ガス(LNG)として容易に輸送することができます。
協力体制と技術の進歩による移行の加速
プロセス産業の脱炭素化は単独の取り組みではなく、産業界、バリューチェーン、テクノロジープロバイダー間の連携と知識の共有を必要とする集団的な取り組みです。成功した戦略、直面した課題、学んだ教訓をオープンにした協力関係により、業界全体の進歩を加速し、技術革新を促進させることができます。
さらに詳しい情報
プロセス産業の脱炭素化は単独の取り組みではなく、産業界、バリューチェーン、テクノロジープロバイダー間の連携と知識の共有を必要とする集団的な取り組みです。
さらに、サプライヤーや顧客と協力してサステナブルな活動を推進し、バリューチェーン全体を通じて排出量を削減することは、包括的な脱炭素化を達成するために不可欠です。業界関係者は、自動化、計装、データ分析、再生可能エネルギー、プロセス最適化を専門とするテクノロジー企業の専門知識や革新的なソリューションも活用して、脱炭素化戦略の実行を加速する必要があります。
この移行において、Endress+Hauserなどの企業は重要な役割を担っており、最新の計装技術、プラント接続ソリューション、データに基づく有益情報、工業プロセスに関する深い理解を提供することで、企業が業務を最適化し、環境負荷を軽減し、意欲的なサステナビリティ目標を達成できるように支援しています。
サステナブルな未来に向けた集団的な取り組み
世界経済における脱炭素化、特にプロセス産業の脱炭素化は途方もない課題です。しかし、これは達成可能な目標であり、有意かつ長期的なプラスの影響をもたらすと考えられます。完全かつ即時の脱炭素化を達成することは、プロセスによっては現実的ではありませんが、継続的な改善、革新的技術の活用、協力関係の育成に取り組むことで、よりクリーンでサステナブルな未来への道が開かれます。
実質ネットゼロへの道のりは、プロセス廃棄物を最小限に抑え、クリーンな燃料を採用し、再生可能エネルギー源に移行し、廃棄物の発生を抑える循環型経済の活動を取り入れるなどの多面的なアプローチに左右されます。前述の4つの柱を取り入れ、技術力、集団的取り組み、継続的な学習を活用することで、プロセス産業は実質ネットゼロ目標に向けて脱炭素化をリードし、よりサステナブルな環境を将来の世代に約束することができます。