バッテリのバリューチェーン強化
バッテリ技術の進歩によってグローバルサプライチェーンの持続可能性が促進され、電力の可用性および信頼性が向上しています。
要約
- データセンターの増加、再生可能エネルギーによる発電の台頭、および製造における電力への依存増大により、既存の電力グリッドに対する負荷が増しています。専門家はマイクログリッドやバッテリ貯蔵といった、ピーク需要時の間欠性や容量の課題を解決する電力増強技術について研究を行っています。
- バッテリ技術は過去50年間で急速に進歩し、特に携帯型電子機器、ノートパソコン、さらに最近では電気自動車産業によって飛躍的に発展しました。
- 最新のバッテリではリチウムが主要な要素として使用されていますが、研究者たちはより安価で反応速度の速いナトリウムイオン二次電池などの代替技術も探求しています。
リチウムバッテリ
日常生活における携帯性や柔軟性の必要性の高まりを受け、バッテリ製造産業は過去数十年の間に急速な成長を遂げました。最新のリチウムイオン(Li-ion)バッテリも、1990年代に消費者向け電子機器での使用を目的として開発が始まりましたが、現在では携帯電話やノートパソコンには不可欠な要素となっています。
Tesla社の共同設立者であるマーティン・エバーハード氏は、複数のリチウムバッテリを組み合わせて電気自動車(EV)に給電するという大きな一歩を踏み出しました。同氏はノートパソコン用のバッテリ製造技術を応用し、より大きなバッテリにおいてコスト効率の良い製造プロセスを実現しました。その結果、Tesla社やその他のEV製造者は既存のバッテリサプライチェーンをEV用バッテリ製造に統合しました。2008年の同社のフラッグシップであるTesla Roadsterは6,831個のLi-ionノートパソコン用バッテリを搭載し、航続距離400 km(250マイル)、最高時速200 km(130 mph)以上を達成しました。
EVのみならず、気候変動に関する懸念も風力、太陽光、および地熱などを利用した持続可能な発電技術への移行を促進しています。これらのエネルギー源による発電は間欠型であるため、バッテリによる電力の貯蔵が不可欠になります。現在では、従来の電力グリッドを補うマイクログリッドへの連続的な給電にもリチウムバッテリが多く使用されるようになっています。これは、電源の冗長化が必要なデータセンターなどの用途では特に重要です。
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ノートパソコンの複数のLi-ionバッテリを組み合わせたより大きなバッテリアセンブリによって、最初の近代的なEVが実現しました。
リチウムバッテリのバリューチェーン
リチウムは、埋蔵された状態から採掘、精製、バッテリ製造、流通など数々のステップとプロセスを経て卸売/小売市場に至ります。このため、リチウムバッテリの価格にはすべての中間ステップのコストが上乗せされます。大型のリチウムバッテリは非常に高価です。例えば、Tesla Model Sの交換用バッテリパックの価格は8,000~10,000米ドルです。
バッテリのバリューチェーンは、主に次の4つのステージで構成されています。
- 上流:採掘者がLi-ionバッテリ製造に使用するリチウム、コバルト、マンガン、リン酸塩、ニッケル、およびグラファイトを採掘します。
- 中流:加工業者および精製業者が陽極/負極活性物質を生産し、取引業者がこれらの活性物質を購入して、バッテリセルを組み立てる企業に販売します。
- 下流:バッテリ製造者がセルをモジュールに組み立て、それを卸売業者や消費者向け小売業者に販売します。
- エンドオブライフ:バッテリリサイクル業者がさまざまな方法で使用済みバッテリを、新しいバッテリ製造に再利用できる個々のコンポーネントに分解します。
採掘
商業量のリチウムは、主にオーストラリア、アルゼンチン、ボリビア、およびチリで埋蔵が確認されています。オーストラリアでは、ほとんどのリチウム鉱石をスポジュメン鉱石のオープンピットを使用して採取しています。西オーストラリア州のグリーンブッシュ鉱山は世界最大の硬岩リチウム鉱床であり、年間約56億米ドルのリチウムスポジュメンを生産しています。
北米および南米では、リチウムは古代塩原下のかん水に濃縮されています。かん水帯水層にドリルで穴を開けて、液体を蒸発池に汲み上げて蒸発させるとリチウム塩が残ります。臭素などの他の鉱物も、蒸発池の濃縮液から抽出できます。
加工と精製
2番手を争うのは韓国と日本ですが、それぞれのバッテリ生産量は中国をはるかに下回っています。韓国は世界の陰極電極の15%、陽極電極の3%、日本はそれぞれ14%と11%を生産しています。
リチウム鉱石の精製プロセスには、研削、煆焼、粉砕、硫酸化といった、セメント製造の工程が流用されています。アルミナ、マンガン、カルシウムなどの他の鉱物の除去には、浸出やろ過プロセスが使用されます。このプロセスは、バッテリ品質の炭酸リチウムが得られるまで継続して行われます。
セルの組立て
バッテリの製造で必要な工程は、バッテリセル全体の組立て、およびセルの組立てです。ここで重要となるコンポーネントは、陰極、陽極、電解質です。Li-ion陰極は主にリチウムから、陽極は主に炭素からできています。各セルにはセパレーターと、バッテリの素材を保持するケースが含まれており、ケースは導電性の電解質で満たされています。
陽極と陰極を生産するには、まず活物質、導電材、およびバインダを混合したスラリーを生成します。次に、スラリーをフィルムまたはフォイル基盤に付着させます。製造するバッテリに合わせてフォイルを切断、トリム、およびカレンダ処理し、2つの圧力ローラで平らにした後で乾燥させます。溶剤は回収して再利用されます。
完成した陽極と陰極の間に、セパレーターを取り付けます。次に、ケース全体に電解質ゲルを充填します。
サプライチェーンの課題
他の一般的なサプライチェーンと比較して、バッテリのバリューチェーンには固有の特徴があり、安全性と持続可能性を維持するために厳重な監視が必要です。まず、かん水、鉱石、およびその他の必要な原料が継続的に供給されるよう、サプライチェーンを慎重に管理する必要があります。実質的なバッテリ製造は中国を中心として行われているとは言え、原料は世界中から集められるため、輸送が滞ると大混乱を招きかねません。
さらに、Li-ionバッテリ製造工程で生成される固体、液体、および気体の廃棄物は、環境に悪影響を及ぼすおそれがあります。
Li-ionバッテリには発火や爆発のリスクがあるため、製造、廃棄、およびリサイクルの厳格な基準を定めることも重要です。出所の疑わしい偽造バッテリでは、これらの危険性がさらに増大します。
Li-ionバッテリのリサイクルも難しい課題です。バッテリは危険な廃棄物とみなされる一方、製造者はバッテリを再利用することでエネルギーを大幅に節約できるだけでなく、廃棄による環境への悪影響も排除できます。
原料に求められる品質、厳重な品質管理、複雑な製造工程、および需要過多などが原因で、Li-ionバッテリの製造コストは高額になります。例えば、1トンの純粋なバッテリ品質のリチウムを製造するのに、289トンの鉱石、750トンのかん水、または28トンのLi-ionバッテリが必要です。
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1トンのバッテリ品質のリチウムを製造するのに、289トンの鉱石、750トンのかん水、または28トンのLi-ionバッテリが必要です。
研究者たちはこれらの課題を解決するため、ナトリウムイオンバッテリの実用化を模索しています。ナトリウムはリチウムよりも豊富に存在しており、採掘しやすく、安価です。また、ナトリウムはリチウムよりも揮発しにくく、より安定しているという特長もあります。
エネルギーを電解液に蓄えるフローバッテリも、グリッド規模のエネルギー貯蔵での使用を見据えて研究が行われています。このタイプのバッテリは、電解液を入れる2つ以上のタンクで構成されており、電解質がポンプによって電気化学セル内を通ることで電気が発生します。
しかし、ナトリウムイオンセルやフローバッテリは、Li-ionバッテリと比較するとエネルギー密度が体積当たりでも質量当たりでも劣ります。また、これらのバッテリは効率性も悪く、エンドユースでの信頼性が低下します。このため、今後しばらくの間はLi-ionバッテリが主要技術として使用され続けると思われます。
電化の未来
Li-ionバッテリは携帯電力に革命を起こし、スマートフォン、電動工具、EV、マイクログリッドといった技術変革を実現しました。世界が再生可能エネルギーや電動モビリティーに移行する中、バッテリの需要は成長の一途をたどっています。しかし、複雑に絡み合ったリチウムバッテリのグローバルサプライチェーンは大きな課題を抱えています。
世界的な持続可能社会の実現には、エシカルソーシングの維持、製造プロセス全体における環境負荷の低減、およびバッテリのリサイクルに関する課題解決が必要です。ナトリウムイオンバッテリなどの電気化学的な代替技術も有望視されてはいますが、バッテリ分野ではLi-ion技術が支配的である状況が続きます。Li-ionバッテリは世界的なエネルギー移行、および2050年までのネットゼロ排出達成に向けた二酸化炭素削減の取組みを実現する重要な要素です。