工業用炭素管理による二酸化炭素排出量の削減
排出量削減のカギを握るのは、プロセスの効率化です。CO₂ を回収・有効利用・貯留するための新しい方法をご紹介します。
要約
- 二酸化炭素排出量の削減は、地球規模の気候変動に立ち向かう上で極めて重要です。二酸化炭素排出量を最小限に抑えるために、プロセスメーカーに対する規制当局の圧力、利害関係者からの監視、倫理的義務が高まっています。
- 二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)により、二酸化炭素の位置付けが変わりつつあります。二酸化炭素は歴史的には有害なものでしたが、現在では産業資源として、あるいは少なくとも貯留しておけば無害な物質であるとみなされています。まだ発展途上ではあるものの、CCUS技術は産業排出ガスの削減に道筋をつけます。
- CCUSは、高い資本コスト、多大なエネルギー必要量、社会的認識など、いくつかの逆風にさらされています。しかし、こうした障害を克服することで、化石燃料への依存度を下げ、同時に企業はその評判を高めることができます。
- 政府の規制、企業の実質ゼロ目標、サプライチェーンからの要求、環境・社会・ガバナンス(ESG)要因など、これはすべて、各事業会社を炭素管理業務の改善に向かわせています。
- 持続可能な二酸化炭素排出管理には、政府、産業界、研究者が協力してCCUS技術の開発、最適化、規模拡大を進めつつ、必要不可欠なインフラを構築する必要があります。
環境上の必要性
気候変動への対応が急務であることから、世界中で産業界の二酸化炭素排出量が注目されています。この温室効果ガスは、地球上の生命に欠かせないものである一方、人間の活動によって大気中に過剰に存在するため、地球温暖化の原因となっています。
その結果、規制の進化、利害関係者の監視の強化、環境責任が事業を行う上での倫理的要素であるという認識の高まりに後押しされ、産業界はその削減可能性を追究する動きを強めています。
規制の現状と変革の原動力
二酸化炭素排出管理の推進は、気候変動を減速させるという人類共通の使命に後押しされています。その結果、各国政府は影響力の大きいプロセスに対してますます厳しい規制を実施するようになっています。2015年に196カ国が批准した画期的なパリ協定では、産業革命以前の水準から気温上昇を1.5°C(34.7°F)以内に抑えるという世界的な目標が設定されました。気温をこの範囲内に維持するには、2030年までに温室効果ガス排出量を45%削減し、2050年までに多くの事業で実質ゼロ排出を実現する必要性があると予想されます。
さらに詳しい情報
2015年に196カ国が批准した画期的なパリ協定では、産業革命以前の水準から気温上昇を1.5°C(34.7°F)以内に抑えるという世界的な目標が設定されました。気温をこの範囲内に維持するには、2030年までに温室効果ガス排出量を45%削減し、2050年までに多くの事業で実質ゼロ排出を実現する必要性があると予想されます。
この世界的な目標を支えるため、米国の大気浄化法やインフレ抑制法、EUの欧州気候法や排出量取引制度など、炭素に価格を設定する地域の法律の制定が進んでいます。これらの措置は、企業が経営上の意思決定において排出コストを考慮せざるを得ない状況にして、産業界に二酸化炭素排出量の削減を義務付けたり、あるいは奨励したりするものです。
利害関係者の説明責任の時代
規制以外にも、産業界の炭素管理技術において、次のようなさまざまな推進力が注目されています。
- 企業の実質ゼロ排出目標:多くの企業は、社内で意欲的な実質ゼロ目標を設定することで、世界的な目標や利害関係者の期待に沿うことを目指しています。これらのマイルストーンを達成するには、排出量データの正確な測定、追跡、報告が必要です。
- サプライチェーンの規制遵守:持続可能性に取り組んでいる大手企業は、サプライチェーンに対しても同様の期待をしており、サプライヤーは、自社の二酸化炭素削減の取り組みを証明する必要しなければなりません。必要な措置には、貴重な事業協力関係を損なうリスクを軽減するために、目標を定め、報告することが含まれます。
- 炭素市場:自主的炭素市場は、炭素削減に対する金銭的インセンティブを提供し、他の二酸化炭素回収プロジェクトに資金を供給するための炭素クレジットを購入することで企業が自社の排出量を相殺できるようにします。
- ESG:投資家は気候変動に関連する財務リスクをより強く認識するようになっており、投資先企業に透明性と行動を求める人もいます。この10年間でESG要因はますます主流になっており、企業の持続可能性パフォーマンスは、長期的な企業価値とレジリエンスを示す重要な指標と見なされることが多くなりました。確かな炭素管理戦略を有する組織は、投資資金を呼び込み、風評リスクを管理し、環境に関する管理がますます重要になっている世界において競争力を手に入れることができます。
CCUSによるCO₂ の排出量削減と新たな位置付け
排出量を徹底的に削減することに焦点を当てた従来の緩和戦略とは異なり、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)の取り組みは異なるアプローチを取ります。その目的は、大規模な点源から二酸化炭素ガスを回収し、それを利用して価値のある製品を作り出したり、安全に貯留して放出による環境害を防止することです。これら3つの要素はそれぞれ急速に成熟しており、効率を高める方法が定期的に登場しています。
発生源で回収
二酸化炭素回収のプロセスには、大気中への放出を防ぐために、プロセスガスストリームのオフガスからCO₂ を除去することが含まれます。これを実行するには多様な方法があり、それぞれに異なる利点と課題があり、技術的な成熟度もさまざまです。
燃焼後回収は、化石燃料燃焼の下流側で発電所や工業施設から発生する煙道ガスの二酸化炭素を回収することに重が置かれた、最も成熟し、広く利用できる方法です。ガスストリームから二酸化炭素を吸収する溶剤としてアミンが一般的に使用されています。
この方法は、二酸化炭素の大部分を効果的に回収する一方で、アミン溶剤の再生に大量の熱が必要となるため、エネルギーを大量に消費します。これは、プラントやプロセス全体の効率に悪影響を及ぼします。化石燃料を燃やして発電している場合、問題はさらに悪化します。
一方、燃焼前回収では、プロセスの上流側で二酸化炭素が捕捉されます。CO₂ の濃度に基づいて、アミンを使用した回収方法またはその他の技術が採用されます。
廃棄物を価値に変える
CCUSの有効利用により、回収された二酸化炭素は、封じ込められる運命にある廃棄物から、市場性のあるものへと新たな位置付けになる機会が提供されます。
原油増進回収(EOR)がその一例です。回収された二酸化炭素は、枯渇した石油・ガス貯留層に注入され、石油生産を増加させると同時に、CO₂ の地下貯留を可能にします。しかし、この方法では、二酸化炭素の漏れや誘発される地震活動の増加に伴う環境リスクを軽減するために、慎重に監視する必要があります。
また、CO₂ はコンクリート、プラスチック、燃料など、さまざまな価値ある材料を製造するための原料として利用することもできます。このアプローチは、従来の化石燃料を使用した製造に代わる持続可能な代替手段を提供します。しかし、その成功は、市場の需要、コスト削減、製品の総合的な環境への影響に左右されます。
回収された炭素は、ポリウレタンなどの価値ある製品を生み出すことで、化学産業の脱炭素化にも貢献できます。このような循環型経済のアプローチは有望ですが、従来の化石燃料を使用した生産と競合することは、コスト面で依然として困難です。
長期的な炭素の隔離
技術やコストの制約から二酸化炭素を再利用できない場合、大気放出を防ぐために、地下に永久貯留しなければなりません。地中貯留は、二酸化炭素を隔離するための最も成熟した方法であり、広く利用されています。そのためには、厳選された地層の地下深くにガスを注入する必要があります。枯渇した石油・ガス貯留層、深部塩水帯水層、岩塩ドームは、長期的な二酸化炭素貯留のための一般的な選択肢となります。これらの地層は、CO₂ が大気中に流出することを防ぐ不浸透性のキャップロック層により、膨大で安全な貯留を可能にします。
安全で永続的な二酸化炭素貯留には、徹底した立地評価、高度な監視システム、厳しい規制が必要です。これらの対策は、二酸化炭素の漏れ、地震の増加、地下水汚染などの潜在的なリスクに対処するために役立ちます。当面は地中貯留が最も現実的な選択肢であることに変わりありませんが、研究者たちは代替の貯留方法を模索し続けています。
たとえば、ミネラルカーボネーションは、CO₂ と地中の元素を反応させて安定した炭酸塩鉱物を形成することで、自然の地質学的プロセスを模倣して、効果的に炭素を長期間閉じ込めることができます。長期的な貯留に関しては大きな可能性がありますが、このプロセスは多大なエネルギー投入を必要とし、コスト、拡張性、リソース可用性の面では課題があります。
考慮事項
CCUSの実現可能性は高まっていますが、いくつかの要因によってその普及は妨げられています。とりわけ、CCUS技術は多額の設備投資を必要とします。地球規模での排出量に有意の影響を及ぼすためにCCUSの規模を拡大するには、パイプライン、貯留、輸送網などの新しいインフラへの多額の投資とともに、世界的な協力が必要です。
CO₂ の回収と圧縮には大量のエネルギーが必要であり、排出量削減効果の一部が相殺される可能性があります。したがって、CCUS技術のエネルギー効率を向上させることは、総合的な環境保全上の利点を高めるために極めて重要です。
さらに、CCUSに関しては、特に地中貯留から二酸化炭素が漏れる可能性について、一般の人々が抱く懸念に対処しなければなりません。堅牢なインフラを整備し、厳格な規制を行うことは、産業排出ガスに関連するリスクを管理し、社会の信頼を得るために極めて重要です。
価値の提案
CO₂ 排出量の管理には課題がつきものですが、何もしなければ、克服すべき障害はさらに増える可能性があります。二酸化炭素は大気中に放出される温室効果ガスとして、気候問題の一因となっています。CCUS技術は、その影響を排除または軽減する方法を提供します。可能性はあるものの、効率的な回収方法や効果的な有効利用戦略を実施するためには、やるべきことがたくさんあります。
使用事例の開発には政府と産業界の継続的な協力が必要ですが、炭素管理技術が成熟し、スケールメリットが実現すれば、コストは大幅に低下すると予想されます。これは、循環型炭素経済の経済的実行可能性を高めることになります。
CCUSなどの革新的な技術を検討し、エネルギー効率向上のために既存のプロセスを最適化し、再生可能エネルギー資源に投資することは、あらゆる産業組織にとって、二酸化炭素削減のために不可欠な手順です。低炭素ソリューションの需要が高まる中、二酸化炭素を効果的に管理する企業は競争力を得ることができます。これは、投資家を惹きつけ、持続可能性に関する高い評価を得ることにもつながります。